四国最南端の地、高知県土佐清水市。中でも竜串エリアは波が作り出したユニークな海岸線、サンゴが広がる美しい海、その豊かな海を育んできた森や山など、大自然が広がる地域です。1970(昭和45)年に日本初の海中公園地区に指定され、現在は国立公園に。豊かな自然を満喫できる県内屈指の観光地です。
その竜串の海に住む生き物たちの魅力を伝えるため、1975(昭和50)年にオープンした「足摺海洋館」が老朽化や耐震性能の不足により建て替えられ、、2020年7月18日に「足摺海洋館 SATOUMI」としてグランドオープンしました。
開館からわずか3カ月で来館者が10万人を超える大人気となった「SATOUMI」の魅力について、水族館プロデューサーでもある新野大館長と、プロモーターを務める岩村大志総務企画課長にお話を伺いました。

———高知県に素晴らしい施設が誕生しました。

新野館長 新型コロナの影響が大きい時期に、オープンできるかどうか?というところから始まりました。本当にお客様に来ていただけるだろうか、と心配していましたが、オープン当日はたくさんのお客様にお越しいただいて本当にうれしかったです。

———こちらの展示は、最初から最後までドラマティックな展開です。新野様は水族館プロデューサーでいらっしゃいますが、そのご経歴を教えてください。

新野館長 最初は、新潟県村上市にあった瀬浪水族館という小さな水族館の飼育係から始まりました。3年間いて、青森県に浅虫水族館ができるということで、オープンの1年前から関わりました。新潟も青森も寒くて、ことあるごとに「あったかい地域に行きたい」と言っていたら「大阪に水族館ができるから手伝わないか」と誘われました。それが海遊館でした。海遊館も1年前から準備に関わり、飼育設備を検討したり、生き物を集める手続きをしたり、実際に採集したりしました。それが1989年のことです。

———大阪の海遊館は水族館の歴史を変えましたね。その後、高知にいらしたのですか?

新野館長 高知には2年前に移住し、今は3年目です。旧館の運営をしながら、同時進行で新館の立ち上げを進めるのは初めてのことだったので、どうなることかと思いましたが...なんとかなりました。

———SATOUMIはどのような流れで建築設計されたのですか?

新野館長 どのような展示水槽にするのかを考え、導線を考え、そこに入れる生き物をリストアップしていきました。それを設計事務所に渡して考えてもらいました。

———プランクトンが豊かな海を育むためには栄養豊富な水が必要だということから、最初のエリアは海と森のつながりについて語るところから始まっています。

新野館長 はい。海遊館も日本の森から始まっていますが、ここもやはり足摺の原生林からスタートしています。この近辺の植生を再現し、環境に応じた生き物を展示しました。

———順路に沿って進んでいくと、暗い所、明るい所、外の開放的な景色や深い海の静けさなど、とてもメリハリが効いています。その中で、照明の効果はいかがだったでしょう?

新野館長 一番気に入っているのは、竜串湾大水槽の2階の浅瀬の底がガラスになっていて、そこから光が抜けて1階の床に波が映っているところ。暗いところに波の影が映って、波の中を魚が通ると、ちゃんとそれも映るんですよね。あれがいいです。

山本 今回は、自然の光を大事にしたいと思って、太陽光に近い色温度などを踏まえて提案させていただきました。館長様の思いもそうだったのではないかと思っています。生きているサンゴの展示もとてもきれいでした。

新野館長 あの水槽はよく「魚がいない」って言われますが、魚を入れるとみんな目が魚に行ってしまうんですよね。サンゴを主役にしたいので、あえて魚を入れていません。

———なるほど。確かにそうですね。

新野館長 この辺りは水がいいので、サンゴがどんどん成長しています。ゆくゆくは、みなさんにサンゴが産卵するシーンをご覧いただきたいと思っています。2~3年先には実現できればいいなと。

———サンゴの照明は、特殊なものだと伺いました。

新野館長 基本は太陽光です。中にある褐虫藻が光合成を行って、栄養を作るんです。そうしないとサンゴは死んでしまいます。太陽光が当たるといいんですけど、今はLEDが発達しているのでそれで対応しています。

山本 そうですね、こちらで使用しているLED照明の光は、ほとんど紫外線を含んでいません。サンゴの中の褐虫藻を光合成させるためには、450nmと650nm付近の光の波長と高色温度、光のパワーが重要になってきます。

新野館長 照明を当てる時間を制限して、リモコンで調整しています。サンゴはマニアックな世界なのですが、得意な担当者がいるので助かっています。

———展示で一番気を付けていらっしゃることは何ですか?

新野館長 生き物たちを自然界から連れてきているので、彼らが生活していた環境を再現してあげることが一番だと思っています。

———では、夜は真っ暗にするのですか?

新野館長 はい。夜は照明を落とします。そういう自然の環境の中で生活していると、生き物たちが元気なんです。いきいきと生活している魚はみんないい顔をしています。料理屋の水槽で泳いでいる魚はみんな「いつ掬われて死ぬかわからない、次は俺だろう」と思っているから、しょぼくれた顔していますよ。ああいう魚を食べるのは嫌ですね。ウチの水族館の魚たちは、よく「美味しそう」って言われています。それはやっぱりいきいきと泳いでいるからです。美味しそうって言われるのはうれしいことですね。

———こちらの水族館ができて、近隣の施設もにぎわっているようですね。経済効果も大きいのではないでしょうか?

新野館長 まわりにもアクティビティが充実していますから、ここで生き物好きになってもらって、グラスボートでサンゴの群落を見たり、シュノーケリングで海に潜ったり、海底館に行って海の中を観察したり、いろいろと楽しんでほしいですね。

———新野様が一番お気に入りの展示を教えてください。

新野館長 足摺の海のコーナーにある、イソギンポの仲間が入っている水槽です。オオヘビガイという貝があり、その空の貝殻に入って顔だけちょこんと出している小さな生き物です。海の中ではとてもかわいくて、これを見ていただきたいと思って展示しました。

山本 今後、水族館照明に要望したいことがありましたら教えてください。

新野館長 アクリル面に写り込まない照明ですね。写真を撮る際に邪魔なんです。

———難しい課題ですね。山本さん、安全性を確保するためには、水槽の明るさだけではダメなんでしょうか?

山本 できないことはありませんが、ほかの部屋からの光が写り込んだり、予期せぬ光が入ります。設計の時にはなかなかわからないので、難しいですね。

新野館長 私も普段は気づかないのですが、写真を撮ればわかります。

山本 水槽の照明は難しいです。今回はいろいろと勉強させていただきました。ありがとうございました。

———続いて岩村様にお伺いします。旧館の来館者は、多い時には年間10万人、直近では年間4~5万人だったと伺っています。それが今、オープンから1ヵ月で5万人。3ヵ月で10万人を超えたということで、すごい人気です。

岩村課長 これほどの来場者数は、1年前には誰も予想できませんでした。

———どのようなところが人気を博していると思われますか?

岩村課長 やはり目の前の海の生き物が、実際にここにいるということですね。以前はこの海岸に人がいるのを見たことがありませんでしたが、今はたくさんの方が海岸に降りて散策しています。カフェがあり、テラスがあり、水族館でありながらリゾートを感じるところも気に入っていただいています。

———館内の照明についてはどのような印象を持たれていますか?

岩村課長 デザインと光でうまく演出できていると思います。足摺の海のコーナーに水槽が並んでいる様子は、光の演出と調和して美術館のようですし、サンゴ水槽、外洋水槽も光とデザインが一体化しています。照明の果たす役割は非常に大きいなと感じています。

———水族館全体としてはいかがでしょう?

岩村課長 最新の水族館として、イマドキの演出をしているので、それも含めて評判がよく、お客様のご来場が続いていると思います。外の自然の光、人工的な光を駆使した明るい場所、照明を抑えた暗い場所、それらを組み合わせて、光と一体化したデザインになっていると思います。

足摺海洋館「SATOUMI」

高知県立 足摺海洋館 SATOUMI
〒787-0450 高知県土佐清水市三崎字今芝4032

○インタビュー:宮地電機 広報 / ○ライター:深田美佳 / ○写真:釣井泰輔「ツルイスタジオ」/ ○取材日:2020.10.26